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フィルム蓋板

映画【人生フルーツ】のすすめ※全国公開劇場一覧

人生フルーツという映画をご存知ですか。あるご老夫婦のゆったりとした暮らしぶりを東海テレビ放送が静かに見つめ続けたドキュメンタリー作品です。夫婦とは他人であり同士でもあります。老夫婦となるまで寄り添うとすると人生で一番長く時を過ごす仲間でもあるわけです。しかしながら夫婦間の人間関係を心地よく維持するという事は時に難しいものです。喧嘩が絶えず離婚する場合もあるでしょう。離婚は思いとどまっても、いがみ合いながら添い遂げる。別居や家庭内離縁というのもよく聞く話です。かつてよりも寿命が延びている現代社会において第二の人生は想像する以上に長いのかも知れません。私の寿命にも第二の人生が与えられるとしたら…。いがみ合いをしたり不幸せを感じたり嫌な気持ちで過ごしたくないな。こんな風に考えていた時、映画化された「人生フルーツ」を知人から教えていただきました。このご夫婦の言葉使いがとても丁寧だとの事で、素敵だな。是非見たい。と思いさっそく主人を誘い劇場に出向きました。

あらすじの舞台は名古屋のベッドタウンである高蔵寺ニュータウン。夫90歳と妻87歳の老夫婦が敷地内の雑木林を育て始めて40年。自然の力に逆らうことなく緑と共存しながら日々穏やかに暮らしています。互いに尊重し支えあってフルーツや野菜を育てながら生活する毎日です。家は30畳一間の丸太小屋。建築家であるインテリで温厚なご主人。優しくまめで料理上手な奥様は畑でとれた作物で夫の修一さんに手料理をふるまいます。特別なことをしているわけではないのに、お二人には穏やかな豊かさを感じます。意見が違っても決して言い争うことなく思いやりながら生活している様子にほっこり心が温まる思いがします。ご夫婦の空気感が素晴らしく内面の豊かさが表情や人柄に現れています。田舎の暮らしに憧れる。とか田舎の生活がしたい。という人がいますが都会のニュータウンの中でも充分にそんな生活は出来るのだなと気が付かされました。平和に穏やかに生きることは贅沢であり食卓に並ぶ手作りケーキのように人生に彩りを与えるヒントが多くみつかる作品です。

 

人生フルーツは2016年製作の映画だそうですが反響があるようで各地でアンコール上映されています。かつては日本住宅公団のエースだった建築家の修一さん。阿佐ヶ谷住宅や多摩平団地などの都市計画にご活躍されました。1960年代には映画の舞台となる名古屋のベッドタウン高蔵寺ニュータウンの計画に携わります。風の通り道となる雑木林を残した自然との共生を目指したニュータウンを計画します。しかし時代は高度経済成長期。経済優先であり不本意な詰め込み型の集合住宅化へと変更され完成したニュータウンは理想とは程遠い無機質な大規模団地でした。修一さんは仕事から次第に距離を置くようになり1975年に自ら手掛けたニュータウンに土地を購入します。このころから自宅敷地内の雑木林を育てはじめたのです。300坪の畑のある自宅は30畳一間の丸太小屋。この家にも修一さんの家に対する思いがこもっています。ご夫婦の暮らしぶりを拝見し自然を愛すること。人を愛すること。あたりまえの事が今の私には出来ていなかったと気が付かされました。豊かな時代になったとはいえ金銭や物だけでは満たされないことを感じることがあります。今の自分に足りない丁寧に生きるということ。人生フルーツの暮らしには学ぶことが多く、これから生きるヒントもたくさんいただきました。私にとって丁寧な暮らしが難しい原因も分かりました。ご夫婦のキラキラした素敵な暮らしぶりは人生コツコツと長年の努力の元に成り立っているのです。支えあうという事や尊重しあう事は相手の問題ではなく結局は自分なのだなと認識できました。家族のみならず相手を尊重し、思いやりを持ち、感謝をすることが出来る人になりたいと感じました。

「人生フルーツ」のすすめ。この映画は単なるスローライフ映画のカテゴリーにおさまる作品ではありません。お二人の穏やかな表情と人柄はここ数年の努力ではなくコツコツと支えあい数十年かかった歴史の現れです。耕した土で育てた食物を美味しく食す。枯葉を土に返し再び良い土壌をつくる。種を植え育て収穫する。地に足の着いた暮らしがあってこその立派な人格形成。特別ではない高齢化社会の中の一組の老夫婦の日常。でありながら現代社会においてこのような素敵なご夫婦が実在するという希望。高度経済成長期から超高齢化社会までの流れのなかに実在する物語がノンフィクションで構成されています。ぜひ見習いたい強くしなやかな生き方です。老いるという現実にネガティブなイメージしか持てませんでしたが少しずつでもいい。毎日をコツコツと丁寧に生活する。人を傷つけない。思いやる。感謝の意を示すことが出来る立派な大人。これができたら素敵だな。と素直に思える作品です。世間には毒ばかり吐いて雰囲気を悪くし、周囲に嫌われる人も少なくありません。悲しい老い方や不幸せな老人にはなりたくありません。第二の人生期には温厚で幸せな暮らしが出来る人でありたい。心豊かな老人になりたい。人生フルーツを鑑賞して老いるという事をポジティブに思えるように。老いる事への未来に希望が持てるようになりました。心から素敵だなと思えた映画です。修一さんが「彼女は生涯で最高のガールフレンド」と語るシーンがありました。修一さんを常に気遣う上品で可愛い女性である秀子さんの人柄あっての言葉なのですが私も言われてみたいと欲が出てきました。豊かさとは何か。美しく年齢を重ねることとは。仕事や夫婦、人生のありかたを考え直そうと思います。豊かな暮らしとは自作の野菜を収穫することだけではありません。食べ物に例えるなら毎食を大事にいただく。目の前の食べ物に、背景に携わる人に感謝する。食材をゆっくり選んでみる。これだけでも毎食コツコツと何年も続ければ何かが見え、大きくかわっているはずです。簡単なコトであっても大事に生きるだけで将来の表情や人柄が自然と素敵になれるのです。このご夫婦の持つキラキラとしたしなやかさのみならず芯の強さを少しでも見習いたい思いです。理想の夫婦像を見せていただいてありがとうございます。まずは綺麗な言葉使いを心がけます。あなたもこの映画を観ると人生観が変わるかもしれませんよ。

 

【人生フルーツ】全国公開劇場 http://life-is-fruity.com/

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