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1 食育に関わる時事問題 日本人の顔が、100年前の写真と比べると、大きく変わっていると言う。顔立ちが違い、大きくかけ離れている。100年前の写真に写る人々は、南方系で、アゴがしっかりした顔立ちである。写真に写る人々の子孫にあたる方々は、スッキリした現代日本人の顔。100年前の南方系の面影は無い。垢抜け、素敵に見える。進化は素晴らしいと感じ、楽観的に思えたのも束の間、原因を知り不安になった。元東京大学工学部電子情報工学科の原島博教授は、日本人の顔の変化を誘発した原因を解明する専門家である。教授によると、日本人の顔は、ここのところ猛烈な勢いで変わっており、アゴが華奢になってきていると言う。教授はコンピューターを武器に、日本人の顔が大激変しつつある謎について、膨大な人の顔をデータ化し、平均値を具体的に映像化したものを平均顔とした。平均顔はいわば、その時代の代表的日本人顔となる。平均顔を比べると、昔より目が大きくなり、鼻は長く高くなっている。ひたいが広がり、眉から下が縮んだようになって、鼻から下半分の輪郭が細くすっきりしている。これらの変化はいったい何処から生まれて来たのだろうか。教授によると、顔の豹変の原因は、食べ物の変化だと言う。人は豊かになるに連れ、食べ物は軟らかくなった。物を食べる為の筋肉が退化した。筋肉の退化により、アゴが小さく、すっきり細くなって来たのだ。更に退化は、目や鼻と顔全体に影響を及ぼした。食物が日本人の顔を変えている。今後も更に変化して行くであろう食生活。この先も顔は退化するのか。100年後、日本人の顔は、どうなるのだろうか。日本人の顔の変化を誘発させた食物について、見ていきたいと思う。

 

2 日本型食生活の背景と内容・神奈川歯科大学の斉藤滋教授は、食べ物とアゴの研究の第一人者。斉藤教授のもと、咀嚼回数実験が行われた。縄文時代から現代までの食事を、忠実に再現し、一回の食事で何回噛むのかを実験。木の実を食べていた時代は、硬くてなかなか飲み込めず、何回も噛んでいた事が分かる。実験中も硬くて、途中、アゴが疲れてしまう。二万年前の縄文時代、一度の食事での咀嚼回数は、2852回。縄文時代の人はアゴがしっかりとし顔は短かかった。2300年前の弥生時代には、炊いた玄米が登場する。狩猟文化は発展し、味付けこそ無いが、現代料理の原型とも言える。玄米はパサパサで硬かったが、縄文時代よりおよそ1000回減り、1956回。この為、弥生人の輪郭は少し現代人に近付いている。続いて1200年前の平安時代。米は軟らかくなり、中国から味噌、醤油が伝わった。咀嚼回数は1645回やや減った。江戸時代は1267回。そして昭和10年代の食事では1180回。時代が進むごとに、咀嚼回数が減少している事が判明した。この減少により、アゴが退化、顔が細長くなってきている。我々の食生活では、どのくらい噛んでいるのだろうか。カレーライスでは389回。縄文時代の7分の1に減少してしまった。スパゲッティは295回。咀嚼回数は戦後、早いスピードで減少し、アゴの退化が急加速した。日本人の食生活の発展が、アゴを退化させ顔を激変させていたのである。では100年後の日本人の顔はどうなるのか。原島教授によると、世界の食料事情が厳しくなった時に、もしもサプリメントで栄養を補う事になった場合、噛む回数は更に大減少する。データが算出した100年後の日本人の平均顔はどうか。アゴ骨は更に退化。顔幅は30%ダウン。縦の長さは伸び顔は長くなる。口元が縮小した分、酸素確保の為に鼻が高くなる。歯は退化し、現在の28本から20本前後になる予想。未来の日本人の顔が垢抜け、素敵になると思っていたところであったが、アゴと歯が退化し過ぎて宇宙人のような顔つきになる予想が出た事は、非常に衝撃である。欧米化しつつある現代の食生活は、生活習慣病の問題のみならず、アゴと歯の退化を著しく誘発するといった興味深い事にまで影響している。日本の食育は盛んになってきたが、世界ではどのような食育が行われているのだろうか。

 

3 世界各国の食生活指針と特徴・日本で、栄養学についての知識が伝えられたのは明治時代で、それまで栄養については、医学の中の一分野に過ぎず140年前、1871年にドイツのホフマンにより伝えられた。1970年代後半になり、食事と生活習慣病が大きく関係していると、アメリカで報告された。食生活指針の策定が行われるようになり、食事と疾患に関する栄養疫学が活発に行われるようになる。1975年以降、日本で清涼飲料水やインスタント食品ばかりを食べる若年層が栄養不足となり、特にビタミンB1が不足し脚気が増えた。1980年代になると、食品の成分が、健康に影響を及ぼしている事が解明される。現代の生活習慣病の原因となる欧米化の食事が健康食として認識される様になる。この様な高カロリー低タンパクな食生活は、アメリカ自身も困っていた食生活をそのまま取り入れてしまったものである。のちに、食生活の方向転換が提案され、日本型食生活が注目される様になった。米や野菜を中心として、動物性脂肪や砂糖、塩分の取り過ぎを避ける事が出来る食事。いわゆる一汁三菜の食事である。しかし日本国内でもファストフードや外食、コンビニエンスストアの発展が進み、欧米化の食生活による生活習慣病が増えている事が分かった。厚生省は「健康づくりの為の食生活指針」を策定する。1985年の厚生省による食生活指針を抜粋してみる。主食、主菜、副菜、を揃える。一日30品目を目標に。動物性の脂肪より植物性の脂肪を多めに。食塩は一日10g以下を目標に。こころふれあう楽しい食生活を。1993年、厚生省より『食育時代の食を考える』が出版された。厚生大臣であった小泉純一郎氏が、厚生省としては食が一番大事じゃないかと述べているところから始まる。1995年には、WHOとFAOの会議で、食物ベースの食生活指針の作成が求められた。2000年になって厚生省、農林水産省、文部省が共同で新たな食生活指針を策定。主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスをとる。ご飯などの穀類をしっかり食べ、脂肪の取り過ぎをやめ、動物、植物、魚由来の脂肪をバランスよく。たっぷり野菜と毎日の果物で、ビタミン、ミネラル、食物繊維をとり、牛乳、乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚、などで、カルシウムを十分に。塩辛い食品を控えめに、食塩は1日10g未満。2006年アメリカ心臓協会は、臓病と闘うための健康的な食事と生活スタイルを勧告している。必要以上にカロリーを取りすぎない様にし、体重を維持する。毎日、少なくとも30分の適度な運動をする。穀物の半分以上を精白されていない全粒穀物にし、色々な野菜と果物を食べる。毎日25gの食物繊維を目指す。資質は全カロリーの35%までとし、大部分は一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸にする。飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を含む脂肪酸を含む食品を、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸を含む食品に替える。飽和脂肪酸の摂取を控える為に、肉は皮が取り除かれていて脂肪の少ない物を選ぶ。また低脂肪の乳製品を選ぶ。少なくとも週2回は魚を食べる。魚の油は、心臓疾患のリスク低下と相互関係がある。トランス脂肪酸を含む食物を減らす。固形マーガリンを含む物や、フライドポテトを制限。コレステロールは1日に300mg以下にする。砂糖が加えられた飲食物は減らす。ナトリウムは1日2300mg未満にする。アルコールは男性1日2杯、女性1日1杯までにする。タバコをすわない。そしてタバコの火に近付かない。この内容は日本の中学生が、家庭科で学習する内容そのままで、健康を考えれば当然な内容であり、大人は既に十分理解できている事である。しかしながら、日頃は便利で、美味しく感じてしまう欧米化の食文化方向へ流され易い傾向にある。便利で美味しい食べ物が、簡単に手に入る時代になった。豊食の時代に産まれ育つ子供達には、大人が繰り返し教える事が必要であり、毎日の食事を見直し続ける努力を怠ってはならない。食育の大切さを痛感させられる。長期に渡り、生活習慣病を引き起こす食文化が続いてしまった欧米では、食生活を見直すための指針が工夫されていたが、具体的な対策にはどのようなものがあるのだろうか。

 

4 各国の生活習慣病対策・2007年、アメリカではマクドナルドやキャンベルスープ、ペプシコを含む11食品販売業者が、12歳以下の子供に対する、一定の栄養の基準を満たさない食品の広告を、自主規制することに合意した。2010年、ルーマニア政府は「ジャンクフード税」の導入を発表した。2011年9月1日、ハンガリーでは、砂糖や塩分の多い飲食品に課税する通称ポテトチップ税が施行された。2011年10月1日からは、デンマークで飽和脂肪酸が2.3%以上含まれる食品に対して、飽和脂肪酸1kgあたり16クローネを課税。施行前には飽和脂肪酸の多い食品であるバターやピザ、肉、牛乳といった食品に買い込み需要が高まった。ところが、食品価格の高騰を招いたうえ、近隣国のドイツで国民が買い物をするようになってしまい12月末を持って廃止。デンマークの例では、効果が得られず廃止に到った経緯をみると、健康の為の措置とは言え、長く続いた毎日の食習慣を短期間で変える事は難しく、一度習慣化した文化を改善すると言うことが容易では無いと考えられる。現代日本で、欧米化する食生活による生活習慣病を食い止めるには、一汁三菜や、郷土料理を知る世代から直接つくり方を受け継ぐ機会を持つ事が必要であり、その素晴らしい食文化を次世代に繋げなければならない。2011年12月28日より、フランスでは、砂糖の添加された炭酸飲料に課税する通称ソーダ税が承認された。2013年10月、オバマ大統領は米国で深刻化している肥満者増加に対し、税金を課す対策を行うことを決定した。アメリカ政府によると、15歳以上で肥満度を示すBMIが28を超える人が、課税の対象となる。計算式により月額が算出、課税される。日本では、マクドナルドの子供向けセットに付いてくる玩具のCMや清涼飲料水の広告は日常よく目にするものであり、ジャンクフード税やソーダ税、ポテトチップ税といった措置がとられる日がやって来てしまうのだろうか。そうならない為にも、問題回避に取り組み、日本人が当たり前に食べてきた一汁三菜の食文化を継承しなければならない。

 

5 不足しがちな栄養素を摂る3つの方法・欧米化食生活が招いた結果として生活習慣病が増えてしまった。原因は分かっている。意識ひとつで生活習慣病にならなくて済む方法を、生徒と一緒に考えたいと思う。学習指導要領の中では、日本人が1日に必要な栄養素の摂取基準を示し、具体的な食物を6つの食品群に分けた考え方で各群ごとに1日に何g必要であるかを学習する事が出来る。特に食物繊維とビタミンをおおく含む食品群は、野菜や果物である。中学生で1日合わせて500gが必要である。1日500gの野菜と果物を摂取しようと言うのは簡単である。しかし500gの野菜を実際に調理し食べているだろうか。出来ていない日が多い。やはり考えて摂らなければ不足してしまう。1日に必要な野菜を無理なく摂る方法が3つある。ひとつ目は、1日3食に分けて食べる。朝昼晩の食事である。朝食についてみてみると、家庭の中で準備された食生活をする学生生活中は特に大きな問題はみられない。しかし大学生や社会人の一人暮らしが始まると、食事は摂れているにもかかわらず、体の不調を訴え受診の結果が栄養失調であると診断される若者が増えている。カロリーは摂れているにもかかわらず栄養素が充分でない為である。朝食は不足しがちな栄養素を補うチャンスである。特に朝食は欠食しない事に気をつけたい。ふたつ目は、不足している栄養素を補う為に一品プラスしていく考え方で、外食やファストフードでは特に野菜不足になりがちな為、野菜を使ったメニューをプラスする方法がある。具の入った汁物、サラダ、煮物、ごま和え、ゆで野菜、おひたし等を少しで良いのでプラスするだけで栄養バランスがアップする。特に葉物の野菜は茹でると量が減り1日500gの目標が簡単に摂取し易くなる。便利な外食も利用しながら、不足した分は次の食事で補う考え方である。三つ目は、果物を食べる。旬の果物で季節感を楽しみながら、野菜だけでは不足しがちなビタミンと食物繊維を補う事が出来る。現代になり、果物離れが進んでいる。おやつに、アイスクリームやスイーツ。食後のデザートに洋菓子を食べる事が多くなった。このようなスイーツは脂質と砂糖を摂りすぎてしまう傾向にある。ペットボトルの清涼飲料水に頼る生活によるペットボトル症候群は糖分の摂りすぎによる糖尿病である。食物繊維は余分に摂りすぎてしまった脂質、糖分、発がん性物質を体外に排出する際に、運搬作用を行う大事な役割を持つ。おやつや、デザートを果物に置き換えるだけで、糖分や脂質の摂りすぎを防ぎ、食物繊維とビタミンを補う事が可能となる。

 

6 生活習慣病を防ぐ食生活・最近、特に気になる食にまつわる問題点のひとつに、小学生の高学年から中学生あたりになると、貧血、頭痛をうったえる児童が増えている。特に女子に多い貧血の症状だが、現代の不足しがちな栄養素を補う必要がある。ミネラル、鉄分、カルシウムを含む無機質の食品群が不足しがちである為、朝食は欠食せずに、果物やカルシウム、鉄分も摂取させなければならない。特に未成年者にとって、1日3食から摂取出来る栄養管理は、知識を持つ大人の責任である。成人してからも、日々の多忙さのあまり、栄養管理に気配りが出来ない状況が多くある。独り暮らしの若い男性にも貧血、頭痛をうったえる人がいる。統計を見ると、最も朝食の欠食率が高いのは若い独り暮らしの男性である。体調不良の原因の多くは、ビタミンや鉄など慢性的な栄養不足である。病気になる前に未然に防ぐ事は可能である。互いに声をかけあい、不足している栄養素をチェックし補いたい。糖尿病・脳卒中・心臓病・高血圧・肥満・脂質異常症などの生活習慣病の治療には食事制限が指示される事が多い。生活習慣病は様々な要因が関係する。

7 血圧が高いと・脳卒中や心臓病を引き起こす可能性がある事が分かる。高血圧は自覚症状がないうちに、血管の状態を悪くしてしまう。適度な運動により改善した例がある。数十年間に渡り、高血圧の薬を服用していた母が、怪我をした事から自転車に乗る生活を止め、歩く生活に変わった。半年後から、血圧は改善し、数十年間かかさず服用していた薬が必要なくなったのである。適度な運動、ストレス解消、趣味を持ちリラックスするといった日々の習慣を心がける事は高血圧予防となる。食生活の見直しとしては、塩分摂取量を6g未満が目標である。血圧コントロールに役立つカリウム、タウリンやミネラル類は積極的に取り入れたい。コレステロールには2種類ある。減らしたいのは悪玉コレステロールである。HDL善玉コレステロールは血管壁にたまった余分なコレルテロールを取り出し、肝臓に戻す働きがあるが、LDL悪玉コレステロールが、血液中に長く存在すると、動脈硬化を引き起こす。禁煙や適度な運動と合わせて、以下の栄養素を取り入れたい。食物繊維・緑黄色野菜や海藻、きのこ、大豆、未精製の穀類に多く含まれる。水溶性の食物繊維は、コレステロールを吸着し、排泄する働きがある。抗酸化ビタミン・果物や野菜に多く含まれる。ビタミンCとビタミンEは互いに協調し悪玉コレステロールの酸化を防ぐ。イソフラボン。

大豆製品に多く含まれる。女性ホルモンと似た構造を持ち、特に更年期以降の女性のコレステロール上昇を抑える。DHA・EPA。サバ、イワシなどの魚の脂に含まれている。高エネルギーなのて摂りすぎには注意しなければならないが、血液の流れをスムーズにしたり、中性脂肪を下げる働きがある。オレイン酸。コレステロール低下作用がある。オレイン酸が豊富なオリーブオイルをサラダに小さじ1杯かけると効果的である。必要なエネルギーは日によって違う。運動量の多い日は、高い値を必要とする。逆に静かに過ごした日、体脂肪率と体重の調整が必要な人は、低い値を目安にすることがポイントである。一日の摂取エネルギーは、成人の場合、身長を基準に〔標準体重㎏×25~30kcal〕が目安である。

 

8 日本人一日の基礎代謝量の目安・厚生労働省白書・糖尿病の初期には、自覚症状が無く血液中のブドウ糖が増えても、すぐに症状は現れない。血糖が高いまま何年も放っておくと、様々な合併症を引き起こす。以下の合併症をいかに抑えるかが糖尿病管理のカギとなる。眼は網膜症。白内障。緑内障。心臓は動脈硬化。心筋梗塞。感染症として膀胱炎。肺炎。感冒。肺結核。皮膚病。尿路感染症。他、脳卒中。脂肪肝。腎症。勃起障害。神経障害。糖尿病を治療する上で、食事療法は最も基本となる。血糖値を上げない為に、外食が多い場合でも、食品の組み合わせのコツを押さえれば上手にエネルギーコントロールができる。

外食も選び方で、料理を楽しむ事が可能であり、適正エネルギー1日分の1/3を目安とし、それを超えてしまったときは他の食事で調節する。食生活が万病を引き起こすと言っても過言ではない。いずれも、バランスの良い献立をたてることで、生活習慣病の症状は回避できる。日本人の主食である米は小麦粉からつくられるパンやパスタと比べ、ミネラルや食物繊維が非常に多く含まれている。また必須アミノ酸も多く含まれた最も優れた主食と言える。魚と一緒に食べる事で、アミノスコアが更に高評価となり、効率よく良質タンパク質を補う事ができる。日本人があたりまえに食していた、ご飯と魚プラス副菜に汁物。この一汁三菜の食文化が、いかに素晴らしいのかを、今後も忘れずに継承し、米離れした献立に偏らないように気をつけたい。水分補給はこまめに行い代謝の促進をうながす心がけが重要である。

 

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